みなさま、こんにちは!
弁護士の菅原です。
あっという間に、また前回の更新から1か月が過ぎてしまいましたが、
みなさまはお元気でお過ごしでしょうか。
夏本番、毎日暑さにバテそうになりながら、
もうすぐのお盆休みを心待ちにされていらっしゃる方も多いのかな。
今日は、みなさまにぜひ知っていただきたい
「自己治療仮説」について、少しブログを書かせていただこうかなと思います。
自己治療仮説って、聞いたことがないという方も多いかも知れません。
これは、薬物やアルコールの依存症の方たちが、どうして依存症になるのか、
その原因についてのひとつの仮説なんです。
人はどうして依存症になってしまうの?
という問いに対して、
それは、ある人が困難や苦痛を抱えている場合に、
その人自身が自分でその痛みや苦しみを緩和させるために
その緩和に役立つ物質や、行動を繰り返していく・・・
その結果としてなってしまうんだよ
と、このように考えるのが「自己治療仮説」です。
この仮説は、アメリカ合衆国の精神科医が30年以上も前に提唱したものであり、
私は日本語に訳された『人はなぜ依存症になるのか~自己治療としてのアディクション』(翻訳:松本俊彦医師)で知ることができました。
私は弁護士として、日々たくさんの依存症の方にお会いしてきましたし、
仕事を離れた身近で大切な方のなかにも、依存症を患っている方がいらっしゃいました。
こんな風に依存症が身近にあった私にとって「自己治療仮説」の内容は、
まさにそう!!そのとおり!!!
と大きくうなづき、また勇気づけられる内容だったんです。
例えば、覚せい剤依存症の方の刑事裁判などでは、
ご本人に対して、裁判官や検察官、時には弁護人からでさえ、
「自分をだめにする行為とわかっているんだからやめなさい」とか、
「自分を大切にして、今度こそやめなさい」とか、
そのようなお説教がなされることも、少なくないんですよね。
でも、そのようなお説教はご本人にはあまり響かない・・・
それはまさに、ご本人が「自己治療」として薬物を使っている現実を見過ごして、
表面だけのお説教になっているからではないか、と私自身は考えています。
上記の本を書かれたアメリカの精神科医さんは
依存症の方に対して、こんな風に問いかけをするそうです。
「その薬物は、あなたに何をもたらしたのか?」
こんな質問をする裁判官や検察官に、私はお会いしたことがありません。
でもこの質問は、ご本人に薬物をやめさせるための第一歩として、とても適切な質問だと思います。
翻訳をされた松本俊彦医師は、依存症治療で日本で最も権威がある方のおひとりでいらっしゃいますが、
松本医師は「訳者 はしがき」でこんな風にお話をされています。
『実は、依存症患者の多くは、何らかの困難な問題や苦痛と闘うなかで、飲酒量が増えていき、あるいは、仕事や家族、恋人、友人を顧みない薬物乱用へと耽溺していきます。
おそらく依存症患者は無意識のうちに、自分たちの抱える困難や苦痛を一時的に緩和する役立つ物質を選択し、過酷な「いまこの瞬間」を生き延びてきたのでしょう。
その結果、確かに依存症には罹患こそしましたが、そのおかげで「死なずにすんだ」と考えることもできるわけです。』
このような依存症者の側面を、もっと裁判所や検察官に知っていただきたい、
そう願ってしまう私は欲張りでしょうか。
確かに、覚せい剤のように使うだけで犯罪になってしまう依存症の方は、
社会のルールの中では、罰を受けなければならないのかもしれません。
でも、その方を責めるだけではなくて、
犯罪をしてしまったけれど、例えば覚せい剤に助けられていた側面を否定せず、
そうせざるを得なかった過去を癒しながら、
これから先は覚せい剤がなくても「死なずにすむ」人生をどう組み立てていくか、
そんな話を、刑事裁判の中で、みんなが膝をつきあわせてできるようになれたらいいのにな~。
そんな私自身の願いを込めて、今日はこのブログを書いてみました。
明日も大切な裁判があるので、ちょっと筆に力が入りすぎたかな??
ただでさえ暑い毎日ですのに・・・どうぞお許しください(^_-)-☆
これからはもっと「自己治療仮説」のような考え方や、
それに基づく支援の輪が広がることを心から願いつつ、
明日の裁判もがんばってきますね!
それでは、また近いうちにお会いしましょう。
次はもう少しやんわりのんびりの内容を書きたいなと思っています。
それまでみなさま、どうか楽しくて笑顔の多い夏をお過ごしください☆
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